考えなしに逃げてはいけない


 誤解される恐れがあるので強調しておきたいのだけれど、僕は高校を辞めることを推奨したことは一度もない。僕が高校をやめてよかったと思えるのは、今だからこそ言えることにすぎない。その時は、ほんとうにしんどかった。そして、危なかった。

 周りの見る目が変わる。社会的な身分も失う。それどころか、高校中退というネガティブなレッテルを貼られ、下手するとそれを一生背負っていかなければならない。そのような状況を、すべての人が耐えて乗り越えられるわけではない。

 僕が幾度も危機を経て今に至る道を歩めたのは、無数の幸運の結果に過ぎない。なにかが少し違っていただけでも、道の途中で挫折したまま立ち直れない可能性はあった。

 その意味で、高校を辞めるという選択は、この社会においてはリスクが大きすぎる。それは他に選択肢が見つからない場合にのみ、やむをえず、あるいは、悲壮な覚悟をした上で選ぶべき最終手段であって、誰かに勧められて選択するものじゃない。

 どれだけ勉強が嫌いで学校に行くのがイヤで、そこに行くことに意味を感じられないとしても、基本的には、その場所から離れない方がいい。具体的に言えば、無理だと諦めて退学するのではなく、たとえば保健室のような場所に緊急避難しつつ、勉強からしばらく離れ、様々な人に相談しながら、自分が興味を持てることを探したらいい。

 同じようなことは、大学生にも、また、社会に出てからも言えるだろう。そこで努力する意味を感じられずに大学や会社をやめる人は少なくない。どうしようもないときは、それもやむをえないと思う。でも、それは投げやりな気持ちで取るべき選択肢ではない。

 リスクを背負わなければならない時が人生にはあるのは僕だってよく知ってる。でも、当然だけれど、何の考えもなしに大きなリスクを背負うのは馬鹿げている。

 逃げたい気持ちの時は、何も考えずにそちらに突っ走ってしまうことがある。でも、それは最も大きなリスクを抱えた行為だ。そんな風に突っ走って上手くいく確率は低い。

 できるだけ今いる環境でうまくやりくりしながら耐え、適度に休みを取りながら、その間に自分が興味を持って没頭できることを探した方がリスクは少ない。そこで考えたり努力したりすることによってエネルギーを蓄えながら、次に何かをするための経験を積むことができれば、危ない橋を渡らずに着実に前へと進むことができる。

 人生においてリスクを背負うべき時はある。僕の経験で言えば、それは逃げ腰の時ではなく、攻めるべき好機を狙ったほうがいい。しんどくて逃げたい気持ちが生じている時は、静かに休みながら力を蓄え、チャンスが巡ってくるのをじっと待っていた方がいい。