たとえ経験がないとしても


 逆に、受験までに思考の鍛錬をしてきていない受験生は、そのような経験のある受験生と比べて、成績が伸びはじめるのはどうしても遅くなってしまう。考える経験が少ないのだからやむをえないのだけれど、「自分はバカなんで」と言う塾生は、こうしたタイプであることが多いために、問題はよけい複雑だ。

 自分が「バカ」だからと見切りをつけてしまうと、どうせ「バカ」なのだからと、知識を身につけることや考えることを怠るようになる。その結果、「バカ」だと思っているがゆえに、いつの間にか「バカ」になってしまうのだ。本当は「バカ」じゃなかったのに。

 仮に現時点ではそう思わざるをえないような状況であったとしても、本気で変わろうと思えば、変わることはできる。

 もちろん、それは思い通りの結果を手に入れられるかどうかとは別の話だ。終わりのある受験期間の中で、考える力を十分に伸ばし、かつ結果も望み通り手に入れられるとは限らない。

 それでも、最後まで諦めずに努力し続けた経験は、受験の後に必ず活きてくる。しかし、変化することを諦め、自分を鍛える努力を放棄すれば、問題は先送りされたまま、時が経つにつれて状況は悪化していくばかりだろう。

 自分のことをバカであり、もうそれは変わらないものなのだと思うことは、とても心を傷つける。それだけでなく、努力を諦めることで、自分を本当にバカにしてしまう。そのような悪循環に陥ってしまっては、いけない。

 自分がバカなのかもしれないと思うことは、心を深く傷つける。

 僕は中学校の英語の先生に言われた「お前はバカだからな」という言葉を今でも忘れることができない。思えば、あれから僕の長きにわたる英語嫌いがはじまった。先生は悪気なく冗談で言ったのだろうけれど、僕の心には深く刺さった。

 塾生の話を聞いていると、そのような言葉を投げかけられた人は少なくないのだなと感じる。でも、そういう言葉に惑わされちゃいけない。たとえ現時点でそう言われざるをえない状況だとしても、思考力を鍛えて頭がよくなっていくことを忘れちゃダメだ。